≪ 2025/01 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 ≫
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
WEB拍手、本当にありがとうございます!!
近日中に少し長いのを書いて更新できたら、と思ってネタをこねこねしています。
オロチは本当に良いゲームです。うっかり忘れかけてた三国萌えまで再燃しそうで危険です。
以下小ネタです。
えーと私、三国では呂蒙と陸遜のコンビが好きでした……。
というわけで、左近と呂蒙さんに、三成と陸遜をちょっとだけ語らせてみました。
カプ要素はないはずですが、もしこの組み合わせが苦手な方がいらしたら申し訳ありません。
呉という国では、碁が盛んである。
上は百歳の年寄り、下は三つの童までもが碁を打つという。街を歩けば、どこからともなく碁盤に碁石を置く音や碁笥をまさぐる音が聞こえてきたり、仕事帰りの男たちが酒舗で一杯やりながらぱちりぱちりと打っているのをよく目にする。
孫策の陣営にも、碁の好きな者は多い。何しろ孫策からして無類の碁好きで、意外なことにかなりの腕前らしい。
「何しろ一番の碁敵が周瑜殿だ。周瑜殿は呂範殿と並ぶ碁の腕をお持ちだからな。負けず嫌いの殿が、あれで強くならん方がおかしい」
俺に碁を教えたのもあの方だと、盤上に黒石を置きながら呂蒙が言った。何でも呂蒙、かなり貧しい家の出で、孫策に仕えるまで碁石すら見たことがなかったのだという。
「孫策殿が師匠……ってことは、あの御仁もこんな風に駆け引きめいた手も使うんですかい?」
茶を啜った左近が、碁笥を引き寄せて訊いた。猪突そうに見えて孫策、意外と駆け引きもできる男なのかと思ったら、
「いや、これは周瑜殿がよく使う手でな……殿はまぁ、碁でも正攻法がお好きだ」
要するに、碁でも猪突そのまんまの打ち方ということらしい。苦笑した左近の白石が、盤上にぱちりと小気味よい音を立てた。
孫策の陣営で何度か話をするうちに、すっかり意気投合した左近と呂蒙である。武にも軍略にも優れ、ほとんどおのれの腕ひとつで乱世を渡ってきた男同士、何かしら通じるものがあったのだろう。今ではこのように、暇があれば一緒に碁を打ったりなどしている。
ちなみに腕の方はほぼ互角、どちらも自分の戦場における駆け引きや軍略のほどを盤上に投影しつつ競い合うので、少しも飽きることがない。昼から打ち始めて、気がつけばもう石が見えにくいほど陽が傾いていたことも何度かあった。
「そういやうちの殿も、碁では定石を踏んで打つのが好きでしてね」
「ほう?」
「俺みたいな手合いに正攻法で挑んだら普通は負けるんですが、あれで先読みだけは上手い人で。こちらが仕掛けた誘いだの用意しておいた逃げ道だのをこれまた正攻法でいちいち潰してくれる。それでたまにこちらを追いつめることがあるんで、なかなか侮れませんね」
「石田殿といったか。切れ者だと聞いて、謀をめぐらすのが好きな仁かと思っていたが、その話からするといささか違うようだな」
「ええ。確かに頭の方は切れますがね、とにかく頑固なほど真っ直ぐ物事を進めようとする人なんですよ。そのくせ口と性格はまったく素直じゃないもんで、人と衝突することが多くてね」
しみじみと、左近はため息をついた。こちらの世界でも、それが原因で孤立していなければ良いと思うのだが。
「本当に、その点じゃあんたに懐いてる若いのの謙虚さを、少しは見習ってほしいもんですよ」
「俺に懐いてる若いのとは、陸遜のことか?」
呂蒙が何かと面倒を見ている「若いの」は何人かいるが、「謙虚」が頭に付く「若いの」の心当たりは陸遜ぐらいしかない。
「ええ、そうです。あの小さくてなかなか頭の良い坊や」
「それを陸遜が聞いたらおまえ、燃やされるぞ」
陸遜が小柄で年若いことを気にしているのを知っている呂蒙、左近の言葉に苦笑した。燃やさなくても、さりげなく足を踏みつけるぐらいはやってくれるかもしれない。
「へぇ、おとなしそうな顔をしていたが、あの坊や存外気の方は強いんですかね?」
面白そうに聞いた左近に、呂蒙頷いた。
「そうだな。甘寧というのがよくあいつをからかうのだが、何度か脛を蹴られている」
「ほう、そいつは」
「確かに陸遜は素直で謙虚にすぎる性格だが、それと同じぐらい気が強くて矜恃も高い奴だ。ああ見えてだいぶ苦労もしているからなかなか打たれ強いし、自分の腹の底を探らせないだけの強かさも持っているぞ」
石の配置を確かめながら、左近顎を撫でた。
どうやら左近の方もも、陸遜という人間についての認識を改める必要があるのかもしれない。
「成程、あの坊やも見かけによらないってことですか」
「うちの連中でまったく見かけ通りなのは、殿と大殿ぐらいのもんだと思うんだが………さて」
ふむ、と唸った呂蒙が、指先で玩んでいた黒石を盤上の一角に据えると、左近が何とも嫌そうな顔で頭を掻いた。
それまでほぼ五分だったのが、一気に呂蒙の有利に傾いてしまっている。
「そこに置いてくれますかねぇ。考えてた手が三つばかり使えなくなっちまった」
「本当に三つか、左近? 俺の目算では、ひっくり返せないほど俺の有利に見えるんだが――」
「…………前から思ってましたけど、あんたも存外見かけによらずイイ性格ですよねぇ」
にやにやと笑う呂蒙に、片頬を苦笑に歪めて左近唸った。
嫌になるほど不利な盤上、取り返せるかもしれないが、さてどう動かすべきか。
快晴の空のどこかで、雲雀の歌う声が聞こえる。珍しく実に長閑な、昼下がりのこと。
------
呉で碁(シャレじゃないです)が盛んだったのは本当の話です。
孫策の棋譜は世界最古の棋譜として現代に伝わってるそうですよー。